「体の成長と細胞分裂って関係あるの?」
「減数分裂と体細胞分裂はどうちがうの?」

私たちの体が成長し、傷が自然に治るのは、細胞分裂というしくみがあるからです。
「染色体が分かれたり移動したりして…」と聞くと、難しくて苦手だと感じるかもしれません。

そこで、現役教員の私が、体細胞分裂・減数分裂のしくみを、図解とともにやさしく解説します。
【基本】細胞分裂と染色体
細胞分裂は、ただ細胞が増えるだけでなく、生物が正しく情報を受けついでいくうえで大切なしくみです。
ここでは、細胞分裂の基本となる染色体と、細胞の種類を確認しましょう。
染色体とは?【形と役割】
染色体(せんしょくたい)とは、細胞分裂のときに見える「ひものようなもの」です。
染色体には、次のような性質があります。
- 遺伝子(いでんし)がつまっている:
染色体は細胞の核の中にある。
染色体内には、親から子へ形質(形や性質)を伝える遺伝子(DNA)がまとまっている。 - 生物の種類ごとに数が決まっている:
ヒトは46本 - ペアで存在する:
ふつう、1つの体細胞には、形や大きさの同じ染色体が2本ずつペア(対)になっている。
1本ずつを両親から受けついでいる。 - 親子で同じ数になる
染色体と遺伝子、DNAの詳しいちがいについては、次の記事が参考になるでしょう。

体細胞と生殖細胞のちがい
多細胞生物の体をつくる細胞は、大きく次の2種類に分けられます。
2種類の細胞
- 体細胞(たいさいぼう)
- 生殖細胞(せいしょくさいぼう)
体細胞・生殖細胞が、どのような役割を持ち、どのような細胞分裂をするのかを、下の表にまとめました。
体細胞分裂のしくみと流れ
ヒトも多細胞生物であり、私たちの体はたくさんの細胞でできています。
体が成長したり、傷が治ったりするのは、細胞が体細胞分裂(たいさいぼうぶんれつ)で増えているからです。
体細胞分裂のしくみを詳しく解説しますね。
体が成長するしくみ
体細胞分裂は、多細胞生物の体を大きくするためにとても重要な役割をになっています。
成長には、次のように大きく2つのステップがあります。
- 細胞がふえる:
体細胞分裂によって、1つの細胞が2つに分かれ、細胞の数が増える - 細胞が大きくなる:
分裂してできた新しい細胞は、やがて大きくなり、もとの細胞と同じ大きさになる
体細胞分裂の過程と染色体の変化
体細胞分裂は、次のように大きく6つの段階に分けられます。


体細胞分裂では、分裂前に染色体が2倍に複製され、その後、2つの細胞に分けられます。このため、体細胞分裂を繰り返しても、1つの細胞が持つ染色体の数は、常にもとと同じに保たれるのです。
根で観察される細胞分裂
タマネギの根の先端にある成長点では、活発な細胞分裂を観察できます。
根の先端の観察のポイントは次のとおりです。
- 塩酸を落とす:
細胞を一つ一つ離れやすくするため - 染色液を落とす:
染色体を染める
・酢酸オルセイン溶液(赤紫色)
・酢酸カーミン溶液(赤色)
・酢酸ダーリア溶液(青紫色) - 指でゆっくりと押しつぶす:
細胞の重なりを少なくするため
観察の結果、次のことが分かります。
- 根の先端付近では「ひものようなもの」である染色体が見られる
- 根の先端から上のほうにいくにつれて、細胞の体積が大きくなっている
まとめると、根の先端近くがよく伸びるのは、次の2つの理由があるからです。
- 根の先端近くの細胞が細胞分裂で細胞の数をふやす
- 増えた細胞が体積を大きくする
具体的な観察方法やより詳しいポイントについては、次の記事を参考にしてください。



減数分裂のしくみと流れ
減数分裂(げんすうぶんれつ)は、動物の精子や卵、植物の精細胞や卵細胞といった生殖細胞(せいしょくさいぼう)をつくるための特別な細胞分裂です。
減数分裂のポイントは次のとおり。
- 減数分裂では、分裂後の細胞の染色体の数が半分になる
- 減数分裂は、生殖細胞をつくるときに行われる


上図のように減数分裂では、1つの細胞が2回続けて分裂します。
その結果、もとの細胞が持っていた染色体の数が半分になります。
なぜ染色体の数を半分にするの?
体細胞分裂とは異なり、減数分裂では染色体の数がもとの細胞の半分になります。それは、卵と精子が受精するとき、それぞれの染色体が合体するからです。
もし減数分裂で染色体の数が半分になっていなければ、受精したときに染色体が倍になってしまい、世代を重ねるごとに増えてしまいます。
どの生物も種類ごとに染色体の数が決まっていて、世代を重ねても同じ染色体数が保たれています。
減数分裂によって染色体の数が調整されているから、親から子へと正しい数の染色体が受けつがれるのです。
減数分裂による生物の多様性
減数分裂では、1つの細胞が2回続けて分裂します。その結果、もとの細胞が持っていた染色体の数が半分になった4つの生殖細胞ができるのが特徴です。
ここで、よくある疑問について補足しますね。
2回の分裂のうち1回目が染色体数が半分になる分裂、2回目の分裂は染色体の組み合わせを変える分裂なので、染色体数は4分の1にはなりません。詳しくは高校生物で学習します。
減数分裂によって、両親の遺伝子が組み合わされるため、子は親と全く同じ形質になるとは限りません。
子の顔や性格などが親と似ていたり違っていたりするのは、この遺伝子の組み合わせによるものです。
減数分裂は、生物の多様性を生み出す大きなしくみでもあるのです。
【比較】体細胞分裂と減数分裂のちがい
ここまで体細胞分裂と減数分裂のそれぞれを見てきました。どちらも細胞が増えるしくみですが、ちがいがたくさんあるので、詳しく比べていきましょう。
【ざっくり比較】体細胞分裂と減数分裂のちがい
まず、それぞれの細胞分裂の大きな目的を理解しておきましょう。
- 体細胞分裂: 生物の体を大きくしたり、新しい細胞をつくったりするためのしくみ
- 減数分裂: 命を次世代へつないでいくための生殖細胞をつくるためのしくみ
【表で比較】分裂のようすのちがい
体細胞分裂と減数分裂のようすを表で比較すると、それぞれの特徴がより分かりやすくなります。
上記の表に加え、分裂が行われる場所にもちがいがあります。
体細胞分裂は体のさまざまな細胞(体細胞)で行われる一方、減数分裂は精巣や卵巣など、子孫を残すための特別な細胞(生殖細胞)がつくられる場所でのみ行われます。
生殖細胞とは、子孫を残すための特別な細胞です。精子や卵、精細胞や卵細胞などがあります。精子をつくる場所を精巣、卵細胞をつくる場所を卵巣といいます。
生殖細胞や、それらがつくられる場所について詳しく復習したい場合は、以下の記事を参考にしてください▼



よくある質問(FAQ)|体細胞分裂・減数分裂・染色体
ここまで、細胞分裂について解説してきました。ここでは、皆さんが疑問に思いやすいポイントをQ&A形式でまとめていきます。
Q.結局、生物ってなぜ成長するの?
生物の体は、細胞の数を増やすことと、一つ一つの細胞が大きくなることによって成長します。
体細胞分裂によって細胞の数が増え、新しくできた細胞がもとの大きさくらいまで大きくなることで、体は大きくなるのです。
Q.染色体と遺伝子は何が違うの?
染色体と遺伝子には、次のようなちがいがあります。
- 染色体:細胞の核の中にある「ひものようなもの」で、遺伝子をまとめている。
細胞分裂のときに見える。
- 遺伝子:親から子へ形質を伝える情報そのもの。
染色体の中につまっており、DNAという物質でできている。


例えるなら、染色体は本で、DNAはその本を構成する一枚一枚の紙、遺伝子はその紙に書かれた情報である文章だと言えます。
さらに詳しいちがいについては、次の記事が参考になるでしょう。



Q.精子や卵以外の細胞は、すべて体細胞なの?
はい、基本的に精子や卵以外の細胞は、すべて体細胞だと言えます。
多細胞生物の体をつくる細胞は、大きく体細胞と生殖細胞に分けられます。
精子や卵(植物の場合は精細胞や卵細胞)が生殖細胞で、生殖細胞以外の体を構成するすべての細胞が体細胞です。
Q.体細胞分裂で、なぜ染色体の数がもとと同じになるの?
体細胞分裂では、分裂する前に染色体が一度2倍に複製されます。
その後、複製された染色体が2つの新しい細胞に分けられるため、それぞれの細胞がもとの細胞と同じ数の染色体を持つことができるのです。


Q.減数分裂は、なぜ染色体の数を半分にする必要があるの?
減数分裂で染色体の数を半分にするのは、受精のためです。
精子と卵が合体(受精)するとき、それぞれの染色体が合わさります。
減数分裂によって、染色体数が調整され、親から子へと正しい数の染色体が受けつがれるのです。


Q.細胞分裂の図を覚えるコツは?
細胞分裂の流れの図を覚えるには、それぞれの段階で核の形や染色体の動きに注目するのがポイントです。
- 核の丸い形が見えるが、染色体は見えない
- 染色体が2本セットのひものように見える
- 染色体が中央に並ぶ
- 染色体が両端へ分かれる。
- 染色体が両端で集まり、細胞質が2つに分かれる
- 2つの新しい核ができ、細胞ができる
上記のポイントを覚えるための『ざっくり分裂ステップ』は、次のとおりです。
①丸-核-1つ→ひも-染色体-が(②散らばる→③一直線→④端へ移動→⑤端で集合)→⑥丸-核-2つ
【まとめ】細胞分裂の重要ポイントを確認しよう
この記事では細胞分裂について詳しく解説してきました。まとめとして、今回の学習で特に重要なポイントを整理して確認しましょう。
細胞分裂の基本用語は次のとおりです。
【細胞分裂】基本用語
- 染色体(せんしょくたい):細胞分裂のときに核の中に見える「ひものようなもの」
- 体細胞(たいさいぼう):体をつくっているすべての細胞
- 生殖細胞(せいしょくさいぼう):生殖に必要な特別な細胞。卵細胞や精細胞(卵や精子)
体細胞分裂のポイントは次のとおりです。
体細胞分裂
- 体が成長するときに行われる
- 染色体の数がもとの細胞と同じになる
[理由]分裂前に染色体が2倍に複製され、その後、2つに分けられるから
減数分裂のポイントは以下のとおりです。
減数分裂
- 生殖細胞がつくられるときに行われる
- 染色体の数がもとの細胞の半分になる
この学習のあと「メンデルの遺伝のしくみとDNA」について学ぶと、教科書にそった学習ができます▼



生殖について復習したい方は、下の記事がおすすめです▼


